An Unfinished Archive
2025.10.25
01-city
この場所は、都市の一部として存在しているが、都市の語りの中ではほとんど触れられない。 地図には載っているが、記憶には残らない。名前を持っているが、呼ばれることは少ない。 写っているのは建物と通路、そして生活の痕跡である。洗濯物、階段、壁に残った汚れ。人の姿は見えないが、人がいなかったわけではない。むしろ、ここは人が密集していた場所だったことを、過剰なほどに示している。 写真は状況を説明しない。 何が起きていたのか、誰がここに住んでいたのか、なぜこの状態になったのか。そうした情報は、この一枚からは読み取れない。写っているのは、出来事の途中でもなく、始まりでもなく、すでに通過した後の状態である。 都市は常に更新される。新しさは、古さを押し出すことで成立する。この場所もまた、かつては「新しい世界」の一部として機能していた可能性がある。しかし、更新が進むにつれて、その役割は曖昧になり、やがて語られなくなる。 記録は、こうした場所を可視化する。だが、可視化は救済を意味しない。見えるようになったからといって、理解されるわけではないし、評価が変わるわけでもない。ただ、存在していたという事実だけが残る。 この写真が示しているのは、貧困や不平等といった明確な主題ではない。それらは後から付与される解釈であり、この時点では確定していない。写っているのは、構造と結果であり、理由ではない。 記録はしばしば、何かを明らかにするものとして扱われる。しかし、このような写真が残すのは、むしろ説明しきれなさである。理解しようとすればするほど、欠けている情報の多さに気づかされる。 それでも、この場所は存在していた。 誰かがここを通り、誰かがここで生活し、そして都市の更新の過程で取り残された。その事実だけは否定できない。 この記録は、判断を促すためのものではない。何かを訴えるための証拠でもない。ただ、語られなかった領域が、確かにあったことを示している。